最大400万円。東京都の「創業助成事業」は、創業間もない事業者が使える助成金の中でも、特に人気の高い制度です。
人気の理由は、使い道の広さにあります。設備だけでなく、事務所や店舗の事務所費(家賃)、従業員の人件費まで助成の対象になるため、資金繰りが厳しい創業期にとって、これほど心強い制度はなかなかありません。開業率の向上を政策に掲げる東京都が、創業支援として力を入れている制度でもあります。
その分、競争は激しく、採択率は13〜15%程度で推移しています。申請者のおよそ7人に1人しか採択されない、とても狭き門です。しかも、書類審査を通過しても、その後の面接審査で不採択になれば、助成金は1円も出ません。
そしてもう一つ、見落とされがちなのが準備期間です。申請するには、決められた「創業支援事業」を利用している必要があり、その要件を満たすだけで概ね3か月以上かかります。春の募集に応募したいなら、準備を始めるのは今です。
この記事では、制度の概要と申請までのスケジュール、採否を分ける面接審査への備え方を、申請を支援してきた行政書士・中小企業診断士の立場から解説します。
※本記事は令和8年度第2回の募集要項をもとに、2026年11月時点の情報で作成しています。制度の立て付けは例年大きく変わりませんが、申請の際は必ず最新の募集要項をご確認ください。
次回の募集は2027年4月ごろの見込み
令和8年度の募集は、次の2回でした。
| 回 | 申請受付期間 |
|---|---|
| 第1回 | 2026年4月7日(火)〜4月16日(木) |
| 第2回 | 2026年9月29日(火)〜10月8日(木) |
例年どおりであれば、次の募集は令和9年度第1回として、2027年4月ごろに行われる見込みです。受付期間は10日間ほどと短いため、募集が始まってから準備を始めても間に合いません。
制度の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 助成率 | 助成対象経費の3分の2以内 |
| 助成額 | 下限100万円〜上限400万円 |
| 助成対象期間 | 交付決定日から6か月以上2年以内(事業者が設定) |
| 申請方法 | 電子申請「Jグランツ」のみ(GビズIDプライムが必要) |
| 実施機関 | 東京都・公益財団法人東京都中小企業振興公社 |
対象となる人
次のいずれかにあたる人が対象です。
- 都内で創業を具体的に計画している個人
- 法人登記から5年未満の中小企業者の代表者
- 開業届の提出から5年未満の個人事業主
- 法人登記から5年未満の特定非営利活動法人の代表者
ただし、通算で5年以上の経営経験がある人は申請できません。また、一般社団法人・一般財団法人、医療法人、個人開業医(医業としての申請)などは対象外です。
最大のハードル「指定の創業支援事業」
この助成金に申請するには、都が指定する創業支援事業のいずれかを、申請の時点で利用している必要があります。主なものは次のとおりです。
- TOKYO創業ステーションの「プランコンサルティング」
- 東京都中小企業制度融資(創業)の利用
- 都内の認定インキュベーション施設への入居
- 区市町村の「認定特定創業支援等事業」による支援
いずれも、要件を満たすまでに概ね3か月以上かかります。たとえば、区市町村の認定特定創業支援等事業は、数回のセミナーや相談を受ける形が多く、日程が決まっているため自分の都合では早められません。
4月の募集に間に合わせるには、遅くとも年内〜年明けには、どの創業支援事業を使うかを決めて動き始める必要があります。
対象となる経費
| 区分 | 主な経費 | 上限 |
|---|---|---|
| 事業費 | 賃借料、広告費、器具備品購入費、産業財産権出願・導入費、専門家指導費 | 事業費と人件費の合計で300万円 |
| 従業員人件費 | 都内勤務の従業員の基本給など | 事業費と人件費の合計で300万円 |
| 委託費 | 市場調査・分析費(外部委託で成果物の提出が必要) | 100万円 |
事業費を必ず含めて申請する必要があります。人件費や委託費だけでは申請できません。
主な注意点
- 器具備品は、1点あたり税込1万円以上50万円未満のものが対象です
- 敷金・礼金、バーチャルオフィス、中古品、消耗品、車両、交際費などは対象外です
- 正規従業員の人件費は1人月額35万円まで、役員の人件費は対象外です
- 創業前(開業届の提出前)に契約・支払いをした経費は対象外です
- 助成金は後払いです。いったん全額を自己資金で支払う必要があります
申請から交付決定までの流れ
令和8年度第2回の例です。
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 9月下旬〜10月上旬 | 申請受付(約10日間) |
| 12月中旬ごろ | 書類審査の結果通知 |
| 1月上旬ごろ〜 | 面接審査 |
| 3月1日 | 交付決定 |
申請から交付決定まで、約5か月かかります。
採択率1割台。だからこそ、申請前の見極めが大切
TOKYO創業ステーションが公表しているデータをもとに、当事務所で年度ごとの申請者数と採択者数をまとめました(募集は年2回ですが、公表は年度ごとです)。
| 年度 | 申請者数 | 採択者数 | 採択率 |
|---|---|---|---|
| 令和2年度 | 1,037 | 156 | 15.0% |
| 令和3年度 | 1,140 | 157 | 13.8% |
| 令和4年度 | 1,210 | 162 | 13.4% |
| 令和5年度 | 1,060 | 157 | 14.8% |
※出典:TOKYO創業ステーションの公表データをもとに当事務所が作成(令和5年度まで)
注目していただきたいのは、申請者数が年によって増減しても、採択者数は毎年150〜160件程度でほぼ一定だという点です。都の予算はおおむね前年並みで決まっており、ほとんどの申請者が上限に近い金額で申請するため、採択できる件数がほぼ決まってしまうのだと考えられます。
つまり、申請者が増えれば、そのまま採択率が下がります。令和2年度以降は申請者が1,000件を超える年が続いており、狭き門の状況が続いています。
採択率が1割台ということは、申請者の大半が不採択になるということです。準備に何か月もかけ、面接まで進んでも、結果がゼロということは珍しくありません。
そのため当事務所では、ご相談をいただいた段階で、事業の内容や計画の熟度、要件の充足状況から、採択の可能性をまず見極めます。今の段階では難しいと判断した場合は、正直にお伝えし、お引き受けをお断りすることもあります。
無理に申請して不採択になるよりも、計画を練り直し、準備を整えて次の募集回に臨むほうが、結果的に採択への近道になることが多いからです。「申請すべきか、もう少し準備すべきか」の判断からご相談いただけます。
面接審査が採否を分ける
書類審査を通過すると、面接審査があります。面接では、申請者ご自身が事業計画を説明し、審査員の質問に答えます。
創業助成の面接でよく問われるのは、次のような点です。
- なぜこの事業を、なぜ今始めるのか
- 誰に、どのように売るのか
- 売上計画の数字に根拠はあるか
- 自己資金や資金繰りに無理はないか
- 経営者として、この事業をやり切れるか
創業前後の事業は、実績がない分、計画と経営者本人が見られます。計画書の段階で論点を詰め、ご自身の言葉で説明できるようにしておくことが大切です。
また、創業助成では「助成金がなくても実施できる計画」であることが求められます。助成金ありきの計画になっていないか、自己資金や売上の見通しに無理がないかは、書類でも面接でも確認される点です。
支援事例:半年かけて準備し、自信を持って面接に送り出したケース
当事務所で支援した、地域で福祉施設を運営する事業者の事例です。専門資格を持つ代表が創業し、利用者を着実に増やして、スタッフ数は創業時の約5倍にまで拡大していました。さらなるサービス拡大に向けて、人材の採用と新たな拠点の整備に創業助成を活用したいというご相談でした。
この申請には、事業計画の組み立てから申請書類の作成まで、約半年をかけて準備しました。計画では、代表の専門資格に支えられたケアの質と、創業から積み上げてきた実績を軸に、それが地域の福祉課題の解決にどうつながるかを筋道立てて示しました。
面接審査に向けては、私が事業所に出向き、実際の面接を想定した練習を行いました。代表は、事業への思いと、それを実現する力の両方を備えた方でした。練習を重ねるなかで、事業の強みや計画の根拠をご自身の言葉で語れるようになり、私も自信を持って面接に送り出すことができました。結果は採択でした。
創業助成は、準備にかけた時間がそのまま結果に表れやすい助成金です。
この事例の事業計画書づくりについては、こちらの記事でも紹介しています。
今から始める準備スケジュール(4月の募集を目指す場合)
| 時期 | やること |
|---|---|
| 今すぐ〜12月 | 利用する創業支援事業を決めて申し込む/GビズIDプライムを申請する(発行に1か月程度かかることも) |
| 12月〜2月 | 創業支援事業の要件を満たす/事業計画を組み立てる |
| 3月 | 募集要項の公開を確認し、申請書類を仕上げる |
| 4月 | 申請 |
| 申請後 | 面接審査に向けた準備 |
よくある質問
Q. まだ会社を作っていなくても申請できますか?
A. 都内で創業を具体的に計画している個人も対象です。ただし、指定の創業支援事業の要件を満たしている必要があります。
Q. 以前に創業助成を受けたことがあります。再申請できますか?
A. 本助成金の採択を受けて受給した方は、再度申請できません。
Q. 申請書類の作成を専門家に依頼した費用は、助成対象になりますか?
A. 書類作成の代行費用は、助成対象経費の「専門家指導費」には含まれません。
Q. 相談すれば必ず申請を引き受けてもらえますか?
A. 採択の可能性を見極めたうえでお引き受けしています。今の段階では難しいと判断した場合は、その理由と、次の募集回に向けて何を準備すればよいかをお伝えします。
まとめ
創業助成事業は、事務所費(家賃)や人件費にも使える使い勝手のよさから人気が高く、採択率1割台の狭き門です。準備の早さと計画の質、そして面接での説明力が問われます。特に、指定の創業支援事業の要件を満たすには時間がかかるため、春の募集を目指すなら今から動き始めることをおすすめします。
当事務所では、採択の可能性の見極めから、創業支援事業の選び方、事業計画の策定、申請書類の作成、面接対策まで一貫してご支援しています。「自分は対象になるか」「今申請すべきか」という段階からお気軽にご相談ください。